ファントマ「エンジェルダスト」

2007年2月17日/兵庫 AI・HALL

  • 出演:浅野彰一、美津乃あわ、上瀧昇一郎、藤元英樹、盛井雅司、板橋薔薇之介、斉藤潤、田村K-1、天野美帆、坂本ユカ、内田誠、森愛子、倉増哲州、篠佑子、才花菜月 ほか
  • 作・出演・演出:伊藤えん魔

関西の小劇場界を代表する劇団ファントマ。ぐんぐん知名度を伸ばし、支持層も広げていく元気な劇団……が、今回は2001年の秀作を再演。
もとから知人が「面白いよ。観ておきな」的なことを言ってくれていて、ようやく観る機会に恵まれたので初ファントマ。しかしAI・HALLは大阪公演と銘打たれていますが、どうみても兵庫です。本当にありがとうございました。居住地から片道2時間50分、正直電車で疲れた感は否めず。でも評判どおり、こいつはなかなか面白かった。
とはいえ好き嫌いが分かれそうな気がする。劇団☆新感線の芝居はよく「漫画みたい」と評されるけれども、こちらはそれに輪をかけて「漫画みたい」。徹底して格好よさを追求したSFハードボイルド、な今作、とにかく熱い、漫画みたいというかひょっとして漫画そのもの?な展開に愕然。
どの辺が漫画みたいかというと、展開の軸であったりシチュエーションであったり、いちいち客を煽り立てるものがある。手に汗握る展開が目白押し。直球ベタベタなSFだけども、小劇場の枠で調理しなおされているので演劇としてまったく違和感なし。やっぱり長いことやっているだけあって、手馴れた仕事ぶり。なにも小劇場でやらなくても、もっと幅広く受け入れてもらえる作品だろうに、という気もせんでもない。何しろ客席には家族連れの姿もあり。なるほど家族でも観られるネタの抑え方とか、観やすさも随一。
SFハードボイルド、ということで今作は機械やデジタルやといった“サイバー”な世界観。正直なところ、この脚本を2001年の時点で書いちゃっているということに動揺を隠し切れない。ある程度は書き直されたんだろうけど、6年の月日を経てもまったく古めかしくなっていないのがなんといっても驚き。伊藤えん魔は実は相当なオタクなんじゃないのかなあ、とか思ったり思わなかったり。
しかしこれまたベタなんだけど、そんな展開で最終的に人間の物語になっているあたりは素晴らしい。熱い展開の末に得られるカタルシスもまさに漫画みたいで、くらくらしそうなほど。しかしその先に見えてくるのが意外なまでの人間の温かみ。デジタルの冷たさを演劇というアナログで表現した結果、作品のもつ温かみが炙り出されたということなのだろうか。
しかしアナログで表現とはいえ、照明や音響を巧みに使った演出は見事。舞台上の空間をきっちり仮想世界として見せてしまうのには驚いた。もちろん映画みたく精巧にCGで……ということはできないけれど、それに匹敵するんじゃないかな?と思うような凝りっぷり。そしてある意味一番CGみたいなのが役者のメイクなんだけど、これが不思議なまでに作品にはまっている。一見すればミスマッチなんじゃないかと感じるほどであるにも関わらず。*1
ただもったいないなと思ったのは前半で、もっとメリハリつけて見せられなかったのかなと思った。奇術などを用いての演出は確かに奇抜だけれど、いまひとつテンポが上がってこないので不安だった。後半がぜん面白くなって助かった……。最終的にスロースターターとしての評価は自分の中では高め。小劇場に慣れていない人にも「面白いよ!」とお薦めできる、そんな感じ。
役者。主役ふたりは確かに上手く、格好よさも抜群。しかし何か引っかかるものを残してくれず。上瀧昇一郎、爽やかな雰囲気は小ずるさも内包して味あり。藤元英樹、笑わせつつもどこか狂気を感じさせる二面性に衝撃。今回のMVPとも言うべきか、圧倒的なまでの魅力は今後も要注目。板橋薔薇之介、中性的魅力を醸し出して見事なはまり役。その体の細さもちょっと驚き。クロムモリブデンの活動も楽しみ。森愛子、可憐な美しさで部分部分目を奪われる。演技的にも底知れぬものがありそうで今後を追いたくなったりとか。

*1:そのぶんパンフレットに稽古場風景のノーメイク姿は出すべきじゃなかったと思う