Inouekabuki Shochiku-mix「朧の森に棲む鬼」

2007年2月23日/大阪・大阪松竹座

やっと観られた。あー待ち遠しかった。劇団☆新感線市川染五郎の新感“染”シリーズ、個人的には初観劇。しかし本当に面白かったんだ。ものすごく面白かったんだよ。
非常によく出来たアクション時代劇、でありつつも言霊のエネルギーをひしひしと感じさせるピカレスク・ロマン。一対多な構図の国盗り物語、あっさりわかりやすい前半から怒涛のドロドロを見せる後半まで気を抜くべからず。冒頭の森のシーン(マクベス)から、雰囲気は絶妙。野心にたぎる男・ライは巧言で人々を弄んでのし上がる。笑っちゃうような腹黒さ、観客もサディスティックに舞台上を見つめる。弟分であるキンタのなんとも言えない愛嬌と相まって、序盤はまあまあ落ち着いた展開。
しかし途中で一転、「笑っちゃうような腹黒さ」は「ちょっとさすがに笑えないんじゃないの的な腹黒さ」に。ただ単に会話がもんのすごくスリリングで息を呑み。そう言い抜けるか、と引きつり笑い。アクションもかなり派手で、音響照明ともにやはりフル駆使。音楽もどんどん自己主張激しくなって聴きごえ抜群、徐々に「活劇らしさ」も増してきてどきどき。ネタバレしてしまえば裁判シーン、ここの冷や冷や感は黒すぎて思わず口あんぐり。
意外な事実を提示して第一幕終了、30分の休憩が惜しい、早く続きを見せんかと膝を叩く。一幕だけ観てもひょっとして元取れるんじゃないの?ぐらいの満足感あり。こいつらよくここまで上手く騙されるな、と笑っていいのかよくないのか。多分よくない。サスペンスフルな展開に胸躍り。
第二幕は下手なことかけないな、千秋楽終わったとはいえネタバレしちゃいけない気がする。二幕開演直後の極悪展開はさすがに笑えず、ライが憎らしい。おいおい序盤のサディストとしての観客はどうしたっつーんだよ。一幕とのおもしろ対比が厭らしいまでに味わいあり。しかし極悪展開の後はちょっとしたフィーバータイム。待ってました!の展開にカタルシス
登場人物全員に血が通って、どいつもこいつも考えてること純粋すぎて逆にクセがある。例えばライは目的がしっかりしているばっかりにえげつない。「朧の森に棲む鬼」……しかしライは憎らしすぎて逆に人間臭い。飢えて狂ってやがて哀しい、これぞ正しいピカレスクヒーローか。まあ、本当に悪いんだこれが。一方のキンタは単純。それだけにライとのコンビになると不思議な面白さを伴い。とにかく野望、愛、尊敬、憎悪、どれかひとつの感情を大きく背負った登場人物ばかり。荒唐無稽?な場面も人間らしさで中和してドラマティックに。人間ドラマとしての側面もかなりしっかり、えれど漫画みたいな理屈抜きの格好よさとも両立してやっぱりすげえ。
新感線作品で大きな比重を占めるアクションと歌は今回はやや抑え目。でも見せる時はきっちり見せてメリハリ。アクションの派手さ、照明音響の炸裂っぷりはやはり他の追随を許さず。特殊な殺陣も見応えあり、よくやるなあと感心しつつも燃え。歌は今回日舞と組み合わされることがあり雰囲気作りに効果を見せる。シキブに扮する高田聖子は相変わらずのナイスボーカリスト。音楽は尺八等用いられたロックサウンドが印象的。
ここで今回の特筆ポイントは特殊効果。終盤20分は剋目すべし、舞台そのものいや会場そのものが別世界に変貌する仕掛けに驚愕。大量に降り注ぐ雨、落ちてくる滝。流れる水。臨場感たっぷりでラストシーンは身も乗り出さん勢いでかぶりつき。ポスタービジュアルを思い出して納得のシチュエーションと終幕の鮮やかさにもただただ拍手。
役者。市川染五郎、独特の節回しが嵌って美しい悪役となり。悪さだけでなく人間臭さも端々にみせてさすがの名演。阿部サダヲ、ただコメディキャラに終わらない演技力は圧巻。殺陣の鮮やかさも随一、動く動く。歌も。秋山菜津子、どうしてそんな格好いいの?悩める正義のヒロイン、その心情の機微も丁寧に。真木よう子、低音響いて心地よい。出番少なく勿体ない。高田聖子、おもろ哀しい女を好演。儚くてため息。粟根まこと、どうして見せ場がないのか?でも粟根節は気持ちいい。小須田康人、中盤に舞台全体を背負って怪演。不思議と嫌な奴に見える矛盾をさらりと見せる演技が素敵。田山涼成、テレビとは少々違ったコミカルさが愛らしい。実ははまり役で泣かされそうになる。古田新太、ホームでのかっこよさ炸裂。かといって笑わせないはずがない、顔芸の切れ味も要注目。一幕食い足りない感あれど、二幕の大活躍にはさすが看板役者の貫禄。染五郎対古田、の演技合戦は見応え抜群。

総じて完成度高く、今後のいのうえ歌舞伎も楽しみになる作品でした。劇場で観られなかった人はゲキ×シネかDVDで是非!是非!超お薦め。