メガトン・ロマンチッカー×NEVER LOSE「廃校/366.0」

2007年3月10日/愛知・千種文化小劇場

街の中学校の廃校式典で、惨劇が起きた。事件の予兆はその1年と1日前に現れ、事件の余韻は1年と1日後も残っていた。事件の起きた瞬間を描かない、「前日譚」「後日譚」の二幕演劇。

[前日譚]
  • 作・演出:刈馬カオス
  • 出演:スズキナコ、高野亮、浦麗、大久保明恵、岸良端女、斉藤やよい、瀬口かしす、伊倉雄、山添賀容子、一丸博昭、平山陽子、礒谷祐介

名古屋の劇団、メガトン・ロマンチッカーによって描かれる前日譚。学校の廃校と2年生14人の家出にまつわる、「関係者」たちの人間ドラマ。
刈馬カオスの脚本は、登場人物それぞれに一物を抱えさせることで、それゆえに「うまくいかない」人々を丁寧に描いていく。過去に縛られているために今の現実に悩む者を主軸に据えながら、その周囲の人間たちの感情の起伏を見せていくのだ。よって魅力的なのはむしろ脇役であるし、気になるのは脇役の人間模様。しかし、桃香という人物は「とりあえず主人公」なのだろうから、もっと登場人物を描き込む必要があったように思う。脇役たちにはきちんと血が通っているのだが、どうにも桃香には惹きつけられるものがなかった。
また、この作品を語る上で外せないのが、コロスと記憶をなくした人間の存在だ。一緒に舞台上に存在している人物を食う存在感を見せるコロスと、実体の見えない人間。この演出は観る者の想像力をかきたて、また部分部分で意外な効果をも発揮する。
ぎくしゃくして、つらく痛々しい状況に自ら身を投じていくかのような登場人物たちは、あるモノの落下によって救われる。もっとも、それで本当に救われたかどうかはわからない。しかしラストシーンでも感じるものがあったけれど、ただ痛いだけで終わらせないフォローの入れ方が絶妙。不思議な後味の良さはそこにあるのだろう。
役者。岸良端女の女性以上に女性的な?魅力が目を惹く。瀬口かしすの怪演には観ながらにやにや。

[後日譚]
  • 構成・作・演出:片山雄一
  • 出演:谷本進、山本祥子、長谷川宏樹、戸枝政志、林ゆう、川渕優子、舘智子、好宮温太郎、西山竜一、代田正彦、フタヲカルリ、松本信一 ほか

東京の劇団、NEVER LOSEによる後日譚。事件で妹を失った男とその仲間たちの物語……を、宮沢賢治と妹トシの物語を内包したまま描いてゆく。
男優陣のメリハリ効きまくった演技が印象的、キャラ立ちまくり芝居。コメディとシリアスの区別はっきり観やすい構成。こちらも仲間内の微妙な人間関係を描いており、前日譚と描かんところは共通していたりとか。しかし終盤ははっきり言ってグダグダになっていていやはや残念。
この後日譚でとりあえず絶賛したいところはシリアスに描こうとすればどこまでもシリアスに描けてしまう前半部分。人間関係のひずみを少しずつ見せながらも、魅力的な登場人物を投入することによってテンポよいコメディに転化。はしゃぎすぎではないの?というぐらい勢いよく、ついつい大笑い。後半もしばらくはこれを維持しているので、あの調子ですとんと気持ちよく終わってほしかったように個人的には思ってしまう。シリアスを前面に出してからどんどん微妙になっているので、もっとシリアス部分も丁寧にやればいいのに、とも。なんか粗雑な印象が否めない。NEVER LOSEには1本しっかりしたコメディをつくってほしい。
役者。長谷川宏樹・好宮温太郎・西山竜一、おもしろシリアスをやたら器用にこなし。戸枝政志、反則じゃないの?な面白さ。林ゆう、どこか儚さをたたえてずばりMVP?

あと両方の作品に共通して言えることは、どちらも後半になると怒鳴る芝居がやたらと多くやや見苦しい。怒鳴ったり不機嫌な声を出すことだけが怒りの表現ではないだろうし、そもそも喜怒哀楽のバランスが悪いことがしばしば。個人的にはもっと工夫を加えることが出来るのではないか、もっと観やすい形で観客を引きつける方法があるのではないかと思ってしまう。