「12人の優しい日本人」

2006年1月28日/大阪・シアタードラマシティ(WOWOW生中継)

もはや何度も言われた言葉であろうが、文句なしに素晴らしい社会派コメディ。三谷幸喜が20代の時に東京サンシャインボーイズで上演し、その後同劇団によって二度再演。1991年に映画化もされた。演劇作品としては四度目の再演となる。
ある事件のために選ばれた12人の陪審員が、有罪無罪を巡って丁々発止のバトル。12人全員が最後までほとんど捌けず、暗転も入らない。密室劇。それでいて裁判劇、ミステリとしての構造を持ちながら社会派コメディとして成立させた三谷幸喜の実力に舌を巻く。初演から15年という月日を経てもまったく色褪せない、それどころか裁判員制度の実施を前にますますタイムリーになった印象。
ああ、日本人ってどうしてもこういうとこあるよな、という要素を12人の登場人物全員に割り振り、それらをやたら過剰(極端)に描いてみせることで、タイトルの意味を炙り出す。裁判員制度が実施されたら本当にこんなことになるんじゃないのか、と思わせる説得力がそこにはあったりして。もっともそのまま重く見せるのではなく、笑いによってオブラートに包むのも巧み。よって、コメディとしての側面も強い。笑いに固執している感すらあるのが奇妙な気もするほど。
けれどもちろんシリアスな場面もかなり多く、笑って観ているところを突然足元を掬われる、そんな戦慄もしばしば。シリアスとコメディのメリハリのつき方が実に巧み。瞬く間に三谷幸喜の術中にはまり、観ている側も13人目の陪審員に。丁寧に風呂敷を広げ、結末は広げた風呂敷を綺麗にひとつの結末にむけて畳んでみせる。その辺りの構成はさすが三谷幸喜というべきか、絶妙な匙加減でやりすぎになっていないのがまたすごい。
出演者たち、特筆すべきはやはり生瀬勝久。序盤は生瀬、中盤は小日向、終盤は江口と三人の役者が交代で物語を引っ張っていくのだが、序盤からこの破壊力には目を見張る。小日向は三谷作品では珍しいタイプの役柄、しかしはまり役。江口は初舞台、もうさすがに慣れたのか細かく遊んでいる気がした。独特の存在感を放つのは山寺宏一。その底力を遺憾なく発揮。
約2時間20分、至福の演劇体験。生で観たかった舞台。ぜひもう一回見直したい。が、その前に「十二人の怒れる男」に興味があるなあ。