阿佐ヶ谷スパイダース「桜飛沫」

2006年3月5日(マチネ)/大阪・シアターBRAVA!

http://asagayaspiders.net/modules/tinyd23/index.php?id=3

初・阿佐ヶ谷スパイダース本公演。長塚圭史の作・演出作品はDVDも含めると3本目になるのだけれど。
ぐいぐい引き込まれる、山あり谷ありの時代劇。もちろんただの時代劇に収まるわけもなく、観られるのは現代劇なんだか時代劇なんだか、枠を平気でぶち壊す。で、これは後でインタビューを読んで思ったのだけれど、どうも長塚圭史は「西部劇をやりたかった」らしい。なるほど納得。これは時代劇でありながら、うまく西部劇の様式美に則っている。
第一部「蟒蛇如(うわばみのごとく)」
テーマは生と死と、命の誕生にまつわる「行為」。その「行為」が死に直結する、という設定にまず驚嘆。どこか伝奇的な舞台設定が面白い。で、そこで展開する、まさに生と死の物語。時折、性の物語でもあり。
全体を通して重い雰囲気。重いゆえに滑稽な展開。笑えるからこそ逆に恐ろしい。しかし最初からエグく、すぐに中に出すやら外に出すやら、避妊をしろやら、堕ろせ堕ろすなやら、そんなもう別の意味でエグい流れへ。そのエグさが笑いに変わるのが魅力。それでありつつ……。大筋を見失うことなかれ、第二部に繋がるぞ。
一部の幕切れは、完全に王道時代劇のそれ。橋本じゅん、お茶目な一面から堂々の二枚目開眼まで。水野美紀は独特の透明感。ただ透明でなく、この濁り方がよい。猫背椿は「マイ・ロックンロール・スター」にも通ずる役どころ。こういうのうまいんだよなあ、まったく。伊達暁、飄々とした雰囲気で一種の緩衝材となる。市川しんぺー、おもしろ怖い。この厭味っぽさが。川原正嗣、悪役の美。郷地三兄弟は笑えるヒールだった。
第二部「桜飛沫(さくらしぶき)」
舞台は変わって、寂れた宿場町。かつて人斬りと恐れられた男、しかし今となっては……。彼に異常に執着する男、宿場町の人々。テーマは第一部に続いて生と死。第一部と違うのは、人を殺してきた男がなお生きている、ということ。
第一部より暴力的に、しかし第一部よりコミカルに。それと同時に、第一部ではあまり顔を出さなかった「哀しみ」も強調して。悲劇的な印象が強い。それが誰にとっての悲劇なのか?という点も考えてみるとますます興味深いことになってくる。しかしこれほどまでに登場人物全員を均等に揺さぶるとは。
ただ、第二部は途中で明らかに緩急がついていない部分があって、確かに少々ダレる。それさえなければ……ともったいなくも思った。
山本亨、殺陣は最後にとっておく。元・人斬りの悲哀醸し出す。山内圭哉、面白い。かと思いきや、いい所もかっさらっていく。中山祐一朗、第一部とはうってかわってのバイオレンスぶり。怖くないところが逆に残酷。真木よう子、一番時代劇っぽかった。綺麗。峯村リエ、素敵なキチガイになりきる。山本亨との場面は特に際立って。
結末、徳市と佐久間が斬り結んだ瞬間に両袖から桜飛沫。この一瞬のカタルシス。桜で姿が見えなくなるふたりの男。まさに、震える格好よさ。この一瞬ですべてが解放される、もう3時間超の内容が一気に収束。うわあ、もう観に来てよかったあ、と大喜び。

で、結果的に初の阿佐ヶ谷スパイダースで、割と人数多めのお芝居で、正直期待しつつも不安があったのだけれど、大満足なんです。
苦言を呈するなら第二部の中盤ぐらいで、それ以外は特になし。
しかし時代劇でしかも桜というのはいいもんだなあ、と思いました。
次回公演は11月本多劇場、また大阪来てくれると観にいけるんだけれども。まあ、次に大阪来る時も逃さず観に行ってしまいそうです。