「ウィー・トーマス」

2006年6月24日/大阪・シアタードラマシティ

人生初の翻訳劇、で、ちょっと今まで観た作品とは違う衝撃を。血飛沫飛び散り銃声が響くバイオレンスなストーリーの中で、実はかなりのコメディ。要するに、ブラックコメディ。しかし、ブラックすぎやしまいか。いやいや、これはこれで。
愛猫ウィー・トーマスが殺されたことでブチキレた男が、ブチキレた奴らとブチキレた事態に巻き込み巻き込まれていく、という話。しかし、これでバイオレンス全開なストーリーになるあたり、日本とは感覚がまず違うのな。普通に考えたら笑えない状況がぽんぽん飛び出してくるわけだし。でも、シチュエーションやセリフがどうも面白くて仕方がない。人が血飛沫あげて倒れて、あげくグロテスクに変貌していく様がそこにあっても、なぜか笑っている自分に気づく。フィクションって怖いね。
で、ストーリーそのものは極めてどす黒く、かつヘビーに進行していくのだけれど、これが非常によくできている戯曲で、風刺にもなっていながら、その上単なるエンターテインメントとしても観られる。その証拠に物語の顛末、ここまでしてこれかよ!という「砕き方」。うまいとしかいいようがない。この感覚は落語にも近いものがあるかな。ちなみにストーリーのほうは落語どころか前述の通りアイルランド絡みのヘビーな物語なので、軽く予習しておくとますます楽しめるに違いないです。まあ、俺は予習しなかったんですが、それでも十分面白いです。これがすごいとこかな。
長塚圭史による演出、日本人らしからぬカラッと乾いたもので好印象。日本人が血みどろを扱うと、ついついおどろおどろしくなってしまう傾向があるけど。とにかくさっぱりしてて観やすい。というか、この話を日本人の日本人らしい演出で観ると、とても笑えないのではなかろうか……。笑いと恐怖を反復横飛びするメリハリのつけかたも見事。なんか、感覚に訴える部分は多い気がした。洗脳されてる?
特筆すべきはグロテスク。血飛沫は普通に飛び散るし、終盤はあるビッグイベントによって地獄絵図。銃声もかなり頻繁に聞こえ、火薬の匂いも。よくぞここまでグロテスクさにこだわるな、と思うほどのディテール。一番グロいのは人間である、という結論を導き出そうとする物語ともあいまって。しかし、こうなるとチラシに「心臓が弱い人にはお薦めできません!」と書かれていた理由がわかる。ほんとに。終演後、文字通り赤く染まった舞台を掃除しにくるスタッフの姿を見かけるほどのグロ具合。びっくりするよ。
役者、高岡蒼甫。不器用でもいい声、小奇麗にブチキレつつも遊び倒す怖さ。岡本綾、美しさと精悍さを併せ持つ女優。少路勇介、実質主演ともいうべきポジションで、笑いも恐怖も両方こなし。チョウソンハ、異常なテンションとはじけっぷりに驚愕。堀部圭亮、巧みにクリスティ役で遊ぶ。ツッコミ担当でありつつも……。チョウソンハ、富岡晃一郎との掛け合いは絶品。木村祐一、自然体の演技でしっくり。独特の間合いに抱腹絶倒。笑いも泣きもシンプルにこなしたか。