SHINKANSEN☆RS「メタルマクベス」

2006年7月1日/大阪・ウェルシティ大阪厚生年金会館 大ホール

宮藤官九郎によって翻案された「マクベス」。期待して観に行ったら、これがとんでもなく期待以上。というかなんなんだこの作品は……。観てからもう一週間以上も経つというのにもやもやしている。もう千秋楽も終わってるというのに。
シェイクスピアの「マクベス」を近未来と1980年代、武将たちとメタルバンドに置き換えるとどうなるか、という着想にまず注目。これがしっかり「マクベス」として収束していく様にはもう。唖然としつつ観ているしかなかったのです。物語自体もすごく丁寧に噛み砕いてあり、すんなりと展開を飲み込める。このあたりはもう宮藤官九郎の新境地か?*1近未来と1980年代がごっちゃごっちゃに交錯して同時進行する展開に構成の面白さがあり。微妙なところで話がつながっていくわりには、かなりざっくりした展開。そりゃあそうだ、「マクベス」の大筋をなぞっているってことだもんな。でも、ただなぞっているわけじゃないことは書いておきたい。むしろ、くっだらない笑い(褒め言葉)やらなにやらを大量に包んだ展開で、脱線しながらなんとかかんとか目的地へ向かっている感すらあり。
で、その脚本がいちいち秀逸。もともと宮藤官九郎って舞台ではすごくシュールなものを書くなあ、とは前々から思っていたけど、今回もそれに違わず。王が殺された、という状況でこれでもかとギャグを繰り出したり、シリアスな展開の中にひとつふたつ狂った台詞を入れてみたり。しかしこれが不思議なもので、マクベスの持つ残酷性がギャグをより笑えるものにしているし、ギャグがマクベスの残酷性をどんどん膨らませている気がしてならない。観客も笑っているけど、これって笑えないよな、という寂しさにいつかは気づく感じで。その笑えなさが今回のポイントかもしれない。でも、普通に面白いホンになっているところがまた力量か。結局、原作を読んだ時以上に「マクベス」を「マクベス」たらしめているなと思ったし。
その理由は何なのか、といえばそれは恐らく登場人物の人物設定か?ああ、醒めてんなあと思ったところがある。マクベスは単なる自業自得のおっさんだ、というのは自分も原作を読んだときに思ったけど。宮藤官九郎マクベスを間抜け男として読んだらしく、ランダムスター王(マクベス内野)はそういうキャラに。でも最終的にはしっかりなってるからご安心を。それに伴いランダムスター夫人(ローズ)ら主要登場人物がみんなどこか壊れていることは特筆すべきか。でもこの壊れ方が、いい。壊れる危うさは非現実の物語でも現実に直結しているし。なんか皮肉になっている気がするのは……考えすぎ?
マクベスを踏襲して新古典みたいなところにまで着地してしまった感のあるメタルマクベス。終盤の展開は思わず涙を誘い、というところもお忘れなく。あと、一箇所重大な置き換え場所があるけど、これは完全にオリジナル。そこのところの見せ方はシェイクスピア作品の世界観からは少々逸脱している気もするけど、逆にうまくまとまってるのでよしとしよう。そもそもメタルで近未来でバンドな時点で、シェイクスピアが云々じゃないのかもしれない。ちなみにギャグはかなり高密度。本当にくっだらない(褒め言葉)。ちょっとネタバレすると、マクベスのテーマである「きれいは汚い、汚いはきれい」を、「疲れててもセックスしたい」って読み換えたのには感動した。と同時に腹筋が攣りそうになった。
音楽。メタルががんがん鳴り響くミュージカルなので、これについて書かないなどというのはありえない。とはいえ、ジャパメタなので通常のメタルとは違うな。正直言うと、随分聴きやすいし。ちなみに体内にずーんと響いてくるということで、音楽は本当にライブを観るのと変わりない。というか、実際に生バンドが演奏しちゃっているわけだし。歌詞はもちろん宮藤官九郎で、グループ魂で演れそうなところもちらほら。とはいえマクベスの世界観なんで、展開の中で聴くとやっぱり違う。ちなみに歌詞は好き嫌い分かれそう。
というか森山未來が「やっぱり関西の劇団なんだと思った」というようなことを語っていたように、ものすごく派手。何をするにもド派手。音響も照明も派手。衣裳も派手だし役者の使いっぷりも派手だし、ついでに言えばお金の使い方もものすごく派手。今回一番金をかけたであろうスクリーン(LED)は異常に写りが綺麗だし半透明になって演出にも好都合?
役者。内野聖陽は休憩カーテンコール込みで約4時間ぐらいの長丁場を出ずっぱりで奮戦。お疲れ様でした。かるーい芝居もシェイクスピアがかった重い芝居も丁寧にこなし。ボーカリストとしてもなかなか本格的。松たか子、終盤の鬼気迫る演技に引き込まれた。舞台で映える人なのか。しかし芸達者、大暴れしつつ周囲を牽制。森山未來、非常においしい役回り。瞬間爆発型。実にかっこよい。ダンサーとしての見せ場もあり、ボーカリストとしての見せ場もあり。そして何より身体能力の高さに驚かされた。すごいなもう。北村有起哉、「LAST SHOW」で受けた印象とはまるで別物。前半我慢して終盤大爆発。立ち回りも綺麗にこなしバリバリの二枚目ポジション。鼻水流しよだれ垂らしての演技はまさに熱演。橋本じゅん。バカ演技で笑ってたら、突然の豹変に凍った。「桜飛沫」と同様、豹変のギャップがすばらしい。わかっていてもびっくりさせられる。このかっこよさは観ないと分からない、かも。高田聖子、エロス担当なのかやたらと艶っぽさが冴え。かと思いきやこちらも突然豹変、いきなりおばさんポジションになったりする。幅広し。粟根まこと、いい声フル駆使。目立つシーンは少ないけれど独特の佇まいを発揮。おいしいシーンがいくつかあり、そこは確実に外さず。シリアスも同様に。皆川猿時大人計画から単身乗り込みということで期待していたら裏切らない。完全にあて書きされた、港カヲルキャラ。この人のシーンだけ新感線から大人計画に。存在自体が反則技の面白さ。でも終盤、哀しさを帯びて……。冠徹弥、完全に興味がなかったらこれだもんな。本格派シャウトに男ながら惚れ惚れした。演技も自然体でなかなか好印象、って本職ミュージシャンなのな。本当に拾い物。上條恒彦、重厚なとこをすべて引き受け。しかし軽い演技も非常にすっきりとこなし。円熟したかっこよさはさすがというか、なんというか。実は一番衝撃的だったのはこの人かもしれない。テレビと舞台でこんなに違うとは。
久しぶりにしっかり、がっつりと「観た!」という感じ。長いせいもあるか。とにかくイーオシバイは一刻も早くDVDを発売するように。ゲキ×シネもさっさと始めるように。どれだけでも金出しますから。よろしくね。

*1:落語ではやっていたけれども