007 カジノロワイアル

ピアース・ブロスナンがボンド役を降板、今回からダニエル・クレイグジェームズ・ボンドに扮する*1
びっくりするぐらい真正面、たまにはこんな映画もあっていいじゃない、というか、これでこそ007シリーズ。純粋に娯楽に徹し、とにかく胸躍る展開の宝箱。シリーズ最長の上映時間を感じさせないスピード感で、観客をしっかり掴んでラストシーンまで引きずり回してくれます。
007という称号を与えられてすぐ、という設定だけに、これまでのボンドとは性格づけがまったく異なっているのがまず第一のポイント。ではなぜ、ボンドの性格は変わってしまったのか?ここが今回のキモとなってくるというわけ。今回の007は、ジェームズ・ボンドという人間の変化を描いた作品でもあるということ。細やかな心理描写、これまで007シリーズが避けて通ってきたといっていい「ある形での顛末」。至極丁寧に積み上げられた展開はらすとシーンに収束。カタルシスを得られること請け合い。*2
とはいえ007らしくアクションも充実。工夫を凝らしたアクションは全編にほどよく散りばめられて、メインでもありスパイスでもあるという絶妙な効果を醸し出す。「カジノ・ロワイヤル」というタイトルからも推測できるように、一番の見所はポーカー。繰り広げられる心理戦は普通に面白くて盛り上がるけど、やっぱりポーカーのルールなどは知っておいたほうが絶対にいいと思う。ちなみにこのポーカーのあいだにもアクションありピンチありロマンスありでてんこもり。贅沢すぎっつうか詰め込みすぎ。こんだけ片っ端から見せたら、そんなもんドキドキしないわけがないっつの。
アクションは単純に頭使わないでぼけーっと観ればよし。回を重ねるごとに魅力的になるアクション・シーンはやっぱり007シリーズ名物。今回は地味に派手なことをやっていて、いつもとは対極にあるような気もするけど。ロマンス方面も案外充実、今回はすぐにボンドガールと寝ない。あと特筆すべきといえば、エヴァ・グリーンの知性的なエロさは抜群。全編を通して漂う不穏さは今作のドラマ性。ポール・ハギスが脚本に投入されたことも理由のひとつだろうけど、ざっくばらんにやっちゃっていいところも決してざっくばらんにやっていない。このあたりが効いていて、見応えは十分。
とにかくラストシーンの気持ちよさは体感すべき、なんだけど、ある程度シリーズを観てきていないとあのすっきり感は感じられないのか?今回は主題歌およびタイトルバックも超格好よくて秀逸*3。ズバリ007シリーズ屈指の傑作と言ってしまおう。必見。

*1:史上初、金髪碧眼のボンド

*2:あの場面であの台詞あの音楽って完璧のラストシーンだよな……

*3:タイトルバックはちょっといつもと違うけど

猫のホテルプレゼンツ 表現・さわやか「そこそこ黒の男」

2006年12月10日/大阪・精華小劇場

猫のホテルより派生、池田鉄洋によるユニット「表現・さわやか」第三回公演は初の大阪上陸。コント(というかおもしろシチュエーションストーリー)を何本も連ねて、これぞイケテツ、これぞ表現・さわやかという面白さ。
千秋楽も終わって映像化や再演がない限りもう観られないんだけど、コントという性質上、一本一本説明しながら感想を述べるというのは正直言って野暮としか言いようがない。だってこんなもん説明できないし、役者の面白さも半端ないから、言葉にしても面白くない。
コントの内容は一本一本濃密、ベタからシュールまで幅広く揃えて、とにかく見本市状態。おかげで役者もかなり無理してんじゃないかと思うぐらい様々なキャラに挑戦。どのコントも中途半端はなし、全部始まった瞬間から暗転までフルスイング。どれもこれも考えたイケテツさんの思考回路を疑いたくなるようなぶっ飛びっぷり。でも、決してすぐ下品に走ったりするわけじゃなく、なんか品があるのが素敵。そのコントの脚本に多分相当味付けしてるであろう役者陣の、やっぱりフルスイングしている演技に爆笑。おかげでさわやかどころか暑苦しく、むさ苦しい内容になってるのは否めない。
特筆すべきはコントの構成。ほとんどのコントが最終的に連なってひとつの物語を組み立てているのに愕然とする。しかも内容は案外ダーク。これが「そこそこ黒の男」というタイトルの意味と直結するからすごい。おまけに、コント自体はお洒落なのに、やってることが結構えぐいんだ。このえぐさが意外なほど適切。冒頭のコントに起こる事件は何気に結構怖いし。
音楽の使い方も印象的。コントの中で使われる「I'm too sexy」とか、メインテーマみたいに流れるcupsule「jelly」は耳に残る。このあたりがお洒落なところで、特に「jelly」をバックに踊りまくるエンディングは衝撃。というか圧巻。
演出のお洒落さ、コントの面白さ、物語のダークさ、全部トータルすると意外なまでにさわやか。なるほど、これが「表現・さわやか」か。ああびっくりした。次も是非大阪に!

役者。佐藤真弓、最年長とは思えない可愛らしさに衝撃。38歳!?いちいちリアクション面白い。いけだしん、キャラの濃さと暴走っぷりは随一。笑わないほうが無理。村上航、ぬぼっとした風貌で、思わぬ飛び道具。岩本靖輝、普通なのがこんなにおかしいってどういうことだろう。菅原永二、主役みたいなポジションで遊ぶ。ヘタレ面白い役がほんとにはまる。伊藤明賢、男前なのに崩し倒してびっくりする。タップダンサーとしての実力も発揮。池田鉄洋、出番は少なかれど印象強。NANAのコスプレの破壊力は異常。

2006-12-04

DEATH NOTE the Last name

もはや社会現象、デスノートの実写映画版後編。前編も観たんだけど感想書いてない。また機会があれば改めて書こうかな。
ひとことに凄く面白かった。原作は実はあまり好きじゃなくて、サスペンスとしてなんか頭悪いなあ、と思っていたフシがあるんだけど、映画版はそれを払拭。サスペンスとしても見事に完結した*1、極上のエンターテインメントに仕上がっていました。もちろん漫画特有の荒唐無稽さは残っているけど、それがまた味わい。
とにかくデスノートというアイテムに着目して練られまくった脚本が見事。どこまで原作に従ったものなのかはわからないけど。前編では「名前を書かれた人間が死ぬノート」というインパクトのある部分がプッシュされたのに対して、今回はもっと深いルールまで突っ込んで混沌とした心理戦。詰め込みすぎのきらいもあるけど、緊張感とスピード感を維持するにはしかたなかったのかな。細かく伏線をばら撒いて少しずつ拾っていく構成は完全に俺好み。好みはともかく、カタルシスもしっかり得られるし。ここが前編にはなかったところ。
心理戦以外に着目してみると、今回は笑いどころもしばしば。コメディ的な“間”の演出も取り入れているし、役者も部分部分で面白い演技をする。笑えないシーンなのに笑えるところもあって、ほんの少しブラック。そんなところも魅力。Lの一挙一動でいちいち面白いところがあるので、ちょくちょく注目すると良さそう。ところで板尾創路のシーンは笑っていいのだろうか。俺は笑ってしまったけど。*2
原作とは違うらしい結末、実にきれいにまとめてくれて愕然とした。もっとガタガタした感じで終わっても、それはそれでひとつの結末だろうなと思っていたのだけれど。終盤からの展開がとにかく面白かった。しかし、これだけ人がバタバタ死んでいく中で、結局人が死ぬことをしっかり描けたのは奇跡ではなかろうか。サスペンスで展開させて、最後は人間ドラマに着地する。決してお涙頂戴になっていないのがまたいい。
レッド・ホット・チリ・ペッパーズによる主題歌、前編は確かにどうかと思った。曲調とかはともかく、歌詞の内容は全然内容にそぐわないし。しかし今回、「スノー」はまさにぴったり。余韻を残して映画を終え、エピローグとしての役割を担っている。金子修介による訳も秀逸。
役者。藤原竜也、ふたつのキャラクターの月を巧みに演じわける。終盤は独壇場、凄いの一言に尽きる。漫画的なところを演技に違和感なく持ち込むセンスも随一、まさに完璧な夜神月松山ケンイチ藤原竜也と互角の存在感。コミカルな味を全編通して持たせ、キャラクターの面白さに+α。前編以上に魅力的。戸田恵梨香、小悪魔っぽさを押し出しつつも、時折の表情に戦慄させられた。マギー、いつも通りであるが故に箸休めとなり。池畑慎之介、声のみなれど存在感抜群。主役ふたりを食う勢い。*3鹿賀丈史、作品全体をきっちり締める存在。ひとつ違った目線の演技にはまさに脱帽。影の主役。
現実的な物語ではないけれど、現実を炙り出す力のある作品。老若男女、内容の割にはすっきりしているので家族でも観られるはず。前後編あわせて約4時間半、原作を超えたとすら俺は思うんだけど、世間はどう思っているんだろうか。必見。

*1:客層を考えるとちょっと難しいんじゃないの?とも思ったけど

*2:前編の皆川猿時も笑ったけど、どうなんだろう

*3:なんでこの人ピーター続けてるんだろう……