“アイデンティティー”

激しい嵐に見舞われ、避難したモーテルから動けなくなってしまった11人の男女。そこで嵐をやり過ごそうとする彼らだったが、謎めいた連続殺人が発生してしまい…。練りに練られた巧みなストーリーと驚愕のラストが大きな話題を呼んだサスペンス。

WOWOWで鑑賞。久々にサスペンス映画を観た。個人的に、久しぶりに観るサスペンスとしては最適でした。また、これならば未見の方にもお薦めできる!ということも言えるのではないでしょうか。この作品、古くからサスペンスでは用いられている「孤立」ものです。アガサ・クリスティの「そして誰もいなくなった」に近いものをこの作品から感じ取る事も出来ます。要するに、古典中の古典みたいな題材を使っているわけです。その中でいかに新鮮にミステリーを組み上げてくれているのか……そこがやっぱりポイントとなるわけですが、その辺、まったく抜かりはありません。練りに練られた脚本は、少しの誤差も生ずることなく結末に向かって突き進むのです。冒頭、とにかく凄い勢いで登場人物が紹介されます。本当に必要最低限の説明すらなされませんが、それでそれぞれの性格が完全にこちら側に伝わってしまうのです。それがまず凄い。これを書いた脚本も凄いけど、監督の演出も実に巧み。最初の方は時間軸もずらしてあって、それもまたオツなものです。ですが逆に言えば、この登場人物紹介にも罠が仕掛けてある……かもしれません。疑ってかかりましょう。すべてを疑ってください。その登場人物紹介が終わると、もう本編の始まりです。もう巻き込まれています。この段階で気付かなければ、恐らく最後まで気付きません。きっと、コロッと騙されます。ここからの展開を書いてしまうと思わずぽろっとネタバレをしてしまいそうなので、自粛。あとはもう観てもらうしかないでしょう。全体に張り巡らされた伏線と、そこから導き出されるたったひとつの結論。思わずひっくり返ってしまうような、「騙される」とはこういうことか、という感覚を味わうことができます。古典サスペンスに先読み不可能な展開、それにプラスされる要素……全体の密度はとても高いのですが、それも90分にまとめられています。脚本の力量をそこからもすごく感じます。むしろこの短さだから成立した物語かもしれない。役者の演技もとても秀逸で、この芸達者たちが集まらなければこの映画には騙されなかったかもしれない。怪優、レイ・リオッタは今回も巧みに作品世界を自分のものに変えていきます。レイ・リオッタの凄さは、そういうところにあるのかもしれないけど。とにかく、トリックがトリックでありトリックでないトリック映画。それが「“アイデンティティー”」。この罠に酔ってください。