新選組!各編総評

ネタバレ注意!

多摩編

史上最も大河ドラマらしくない大河ドラマ、と名誉なのか不名誉なのか微妙な肩書きとともに語られる「新選組!」、その「大河ドラマらしくなさ」を初っ端から見せまくる多摩編です。
しかしここを見逃すと多くの伏線をこの先見落とす羽目になる、三谷幸喜お得意のスロースタート。
まあ感想なのでほんの僅かにとどめておきますが、うわーまったりしてるなーという印象。
こんな話に一話割いた大河ドラマがあっていいのか?と言いたくなるような構成です。特に「母は家出する」をはじめとして、「すべてはこの手紙」〓「西へ!」の時間のかけ方。尋常じゃないです。大河ドラマだったからこそできたような感じ。ちなみに「婚礼の日に」は完璧にいつもの三谷コメディで、以前からの三谷好きにはたまらん一話でした。でも大河ドラマとしては、一番評判が悪かったとのこと。
でも、そんな構成でも無駄はほとんどありません。一話一話にエピソードがこれでもかと詰め込まれている。男同士で抱き合って終わるという大変ユニークな第一話から、夫婦の別れやポジティブな旅立ちが待ち受ける第十二話まで。
ほとんどの話が、どこかニヤニヤしながら観られる話になっています。日曜八時に放送されていたドラマとしては、必要以上に肩の力を抜いて観られる作品です。そういう意味では敷居の低さも売りのひとつなのでしょうか。とにかくハッピーな話の連続で、三谷流ホームドラマ、「新選組!」流解釈近藤勇像、コメディ、群像劇。史実にない部分を想像力で丁寧に埋めていくことで、登場人物にどんどん深みが出てくる。特に勇と養母・ふでの確執についてはとても秀逸。多摩編の重要なポイントになっています。ちなみにこの関係は物語終盤でさらなる効果を……。ほか、様々なエピソードの積み重ねは圧巻です。
さて、次に考えるのは、役者についてです。脇役に芸達者が多い!ベテラン勢はもちろんのこと、要所要所で効果的にキャスティングされた小劇場役者も冴えます。本当に誰もが上手いので褒めるしかない。ちなみにテレビ初出演となる野田秀樹ですが、完璧にいつもの野田秀樹です。つまり完璧ということで、勝海舟をズレたリアリティで演じています。
「誰もが上手いので褒めるしかない」と書きましたが、特筆すべき人物がひとり。放送開始前から不安がられていた香取慎吾近藤勇です。ぶっちゃけた話、この段階ではまだあまり上手くないです。少なくとも私はそう思います。ですが第2話の盗賊斬りをはじめ、荒削りながら光るシーンが結構多かったりして、やっぱり大河主演役者特有の才能を感じさせてくれます。一年を通して最も顔つきが変わったのは、やっぱり香取局長だったのではないでしょうか。
全話観た後にもう一度この「多摩編」を観ると、あまりの衝撃に脳髄をやられる可能性大。全員若い。撮影時期でいうと一年半ぐらいしか開いていないわけですが、かなり若く見えること請け合い。それだけでなく、張られまくった伏線に気付いてのた打ち回ったりする面白さも。

個人的お薦め話

  • 第 2話「多摩の誇りとは」この作品に早くも心奪われた回。
  • 第 4話「天地ひっくり返る」なんだか知らないけど大好き。
  • 第 5話「婚礼の日に」これって大河ドラマですよね?part1
  • 第 6話「ヒュースケン逃げろ」これって大河ドラマですよね?part2
  • 第 9話「すべてはこの手紙」観てて心躍った回。
  • 第11話「母上行ってきます」母子の確執に一区切り。ちょっと感動した。

鴨編

鴨編。三谷幸喜が最もノリノリで書いたのがこの鴨編でした。その熱の入れようは、「佐藤浩市芹沢鴨に感動して、ついついエピソードを増やしてしまった」ということからも伺うことができます。まあもともと、「一番書きたかった」と語っているわけですが。それでも「難しかった」と発言しており、やっぱり三谷幸喜はこの鴨編で一番悩んだということなんでしょうな。
構成はやはり時間をたっぷりとかけており、第13話「芹沢鴨、爆発」から第25話「新選組誕生」が「鴨編」にあたります。芹沢鴨暗殺が第25話なわけですから、実質「新選組」としての「新選組!」は第26話から。それまでは「壬生浪士組」の青春群像劇を堪能できます。でも幾らなんでも時間かけすぎってもんで、その辺りには批判のほうが集まったとか。
で、肝心の本編はどうだったかといいますと、やっぱり一言に面白いです。ですが多摩編とは趣向の違う面白さで、ひとくちに面白いと言ってよいかどうか……。鴨編ということで芹沢鴨を大きくフィーチャーし、近藤勇はその後ろをついていく男として描かれます(もちろん、ただついていくだけではないですけれど)。しかし逆に言えば近藤勇を「芹沢鴨を慕う青年」という風にも描いており、その男がどのように暗殺に踏み切ることとなるのか?ということをじっくり見せています。しかも当然鴨編ですから、物語のほとんどは鴨の悪事の解決に割かれます。ここで早くも数人が命を落とすことになるわけで、重い話がいくつか出てきます。特に第17話「はじまりの死」の衝撃といったら……。そして流れとして、多摩編みたいなハッピーさを楽しむことは難しくなってきます。ですがコメディ分は不足していません。むしろ、シチュエーションで笑わせるということにおいては多摩編以上と言ってよいかも。コメディとシリアスをうまく共存させられるのは、やはり職人芸か。ちなみに伏線のほうも相変わらず張られまくっていて、観返すたびにのた打ち回ること確実。
そして芹沢一派の粛清。新選組内ゲバテロリスト集団という「汚名」をこうむる事になる、その第一歩です。多摩編が「新選組!」という作品の世界観、登場人物造形のための積み上げだったとするならば、鴨編は芹沢一派造形の積み上げでした。それが第24話、第25話で終わりを迎えます。第24話「避けては通れぬ道」で、相島一之扮する新見錦切腹。この第24話は完成度が極めて高く、全49話で1話だけ選ぶならば?という質問に対する回答にもよく選ばれるようです。確かに土方・山南コンビがじわじわと新見を罠にかけていくさまは、同じく三谷作品である「古畑任三郎」にも通じるものがあります。役者陣の演技も秀逸で、特に相島一之に至っては、「新選組!」ベストキャスティングのひとりとも言われるほどの怪演。演出もそつなく仕上がっています。この頃の演出が絶頂という意見もあるほど(後半演出が迷走する回がある為)。そして第25話「新選組誕生」。土方・山南らの手はついに芹沢に伸びていきます。この回もかなりの完成度。芹沢暗殺に掛かってくる後半部分は完璧です。
演技のほうは、やはり鴨編ということで佐藤浩市が引っ張っていきます。とにかく上手い。やはりベテランの貫禄、というのでしょうか。おまけにはまり役です。三國連太郎も芹沢を見事に演じたことがあるので、もう父子揃って芹沢役者か?とにかく、オンエアされていた当時「鴨がいなくなったら物語を引っ張っていく役者が……」などと心配されていたほどのはまりっぷり。それは杞憂に終わるわけですが、やっぱり鴨編は佐藤浩市の一人勝ちか……。

個人的お薦め話

  • 第13話「芹沢鴨、爆発」大事件なのかそうでもないのかわからない微妙さに。
  • 第17話「はじまりの死」殿内斬殺。正直かなり辛かった。
  • 第20話「鴨を酔わすな」勇・桂・龍馬に+鴨。これぞフィクションの醍醐味。
  • 第24話「避けては通れぬ道」文句なしに傑作。秀逸なサスペンス。
  • 第25話「新選組誕生」悲劇のピカレスクヒーロー、芹沢鴨の最期に。

風雲編

芹沢鴨の死後、歴史の表舞台へと飛び出していく新選組。その絶頂期を描いた風雲編です。しかし絶頂期の陰には、必ず悲しい出来事が……。青春グラフィティから次のステージへ、また一歩踏み出しました。
構成の方は割と詰め込み気味です。多摩編、鴨編と時間をかけて描いた分、そこからは歴史の波に呑まれたかのように、ドラマティックに描かれていくこととなります。第26話「局長、近藤勇」から第37話「薩長同盟締結!」まで。
面白さはとにかくお墨付き。ますます力を強めていく新選組。鴨編とはまた違った面白さで、少しずつ「大河ドラマらしく」なって……。まあ三谷幸喜がここにきて普通の「大河ドラマ」に落ち着くわけがなくて、やはりそのあたりは究極の大仕掛けがあるのですが。実はこの風雲編はあまり多くを語ることが出来ません。新選組という集団の繁栄、そこに息づく人間たちの姿を中心に描くというスタンスが取られていますが、あまりにも大きな出来事の連続。大きな出来事の影に蠢く人間たちというのは、時に滑稽であったりするものです。そのあたりも完璧で、目線を下げて歴史を描いた結果、歴史上の人物たちが「生身」になっていく。それが自然とコメディとして昇華させられていく辺り、やっぱり三谷幸喜という喜劇作家の面目躍如なのでしょうか。しかし、もはや物語としてはハッピーではありません。ここまでくると多摩編が懐かしく、そして思い出すほどに言い知れぬ思いに包まれること間違いなし、です。人を斬るということは人の生死を左右すること。その話をハッピーに描くことは出来ない……。しかし三谷幸喜はやってくれました。本当に辛いことの陰には笑いがある。そこも漏らさずに描いたことで、かえってリアル感を演出することに成功しています。脚本で演出するということを実現した好例ではないでしょうか。物語としてはきっちり重くすることで、決して過剰な効果をもたらしていないところもよかった。
新選組といえば池田屋事件!この作品では第27話「直前、池田屋事件」、第28話「そして池田屋へ」の二話にわたって描かれています。やはり作り手にもかなり気合いが入っていたのか、素晴らしいです。第27話は静で、登場人物たちの「池田屋事件」までの動きをじっくりと。ちなみに三谷幸喜はこちらの方に力を注いだそうな。第28話「そして池田屋へ」も傑作で、とにかく殺陣殺陣殺陣殺陣。それなのに群像劇で、斬り合いで登場人物の心情が描かれたりします。わざわざ二階建ての池田屋セットを組んだりする辺りも感動。ライブ感のある池田屋事件です。縦横無尽にカメラが動いたりする上に、殺陣シーンだから役者全員がとにかく動きまくって、エンターテインメントとしてのチャンバラ・シーンに仕上がっています。ただ唯一の欠点は、迷走演出第一弾、紫陽花CG……。でもまあ池田屋回だからこそ、殺陣以外のシーンも活きたりするんだよな。
もうひとつ池田屋事件と並んで、「新選組!」で特筆しておかなければならないものがあります。山南敬助切腹です。第32話「山南脱走」、第33話「友の死」、第34話「寺田屋大騒動」の三本で語られることが多く、ここまで来ると一本の映画並みの長さになります。ちなみに某所ではこの三本を「山南三部作」と呼んだりするとかしないとか。とにかく重い。悲しい。いわゆる「鬱展開」をここで見せるわけですが、喜劇作家の描く悲劇は非常に悲しい。人を泣かせるより笑わせるほうが難しい、とはよく言いますし。とにかくこればっかりは、観てもらわないことにはしかたがない。通して観た人だけが味わえるものもあります。絶頂期の陰に隠された最大の喪失、それが山南切腹。重いです。悲しいです。しかし、完成度もかなり高いです。第33話で山南は壮絶な死を遂げ、第34話での出番はほんの僅か。では何故、第34話も「山南三部作」なのか?それは堺雅人自身が「第34話は山南切腹の反動」というようなことを語っていることからも伺えます。「新選組!」全編でもかなり定評のある三部作。感情を激しく揺さぶられること請け合い。
演技のほうはかなり充実。小劇場出身の役者を多数起用することで、演劇的な側面をより煽っていきます。かなりの小市民的軍師・武田観柳斎を演じる八嶋智人はいつも通りはまっています。三谷幸喜の書く八嶋あて書きは、まさに八嶋の王道かもしれない。前々から出ていた甲本雅裕大倉孝二も絶品。桂吉弥噺家。監察方の山崎烝ですがこの人もなかなか。薩摩の大久保を演じる保村大和、土佐の中岡を演じる増沢望もすごいはまりっぷり。どこを切っても上手い役者がわらわら出てくる、一種の金太郎飴状態。更にベテランの大谷亮介が端役で出ていたり(死に方は別の意味ですごい!)、ささきいさおが徹底的にヒールに徹していたりします。さらに鈴木砂羽扮する明里。この明里の存在のせいで、山南三部作がまた……。そして多摩編以来の登場となる伊東甲子太郎、扮するのは谷原章介。絶品です。加納鷲雄を演じる小原雅人もいちいち巧い。群像劇としての面白さが更に大きくなった風雲編、キャスティングの妙をご堪能あれ。

個人的お薦め話

  • 第26話「局長、近藤勇刀!銃!闇討ち!そして三味線!最燃殺陣。
  • 第27話・第28話池田屋です。単純に面白い。
  • 第32話・第33話山南脱走から切腹。重く悲しい、でも傑作。
  • 第34話「寺田屋大騒動」これって大河ドラマですよね?part3

落日編

絶頂期は長く続かず、転落へ。哀しき運命を辿っていく新選組を描いた落日編。もう毎回が鬱展開の連続で、もう重い重い。辛い物語になってまいりました。
この落日編に至っては、構成は超の付く詰め込み方。前半のんびりと進んできた分、その「転がり落ち方」はすさまじいスピードです。駆け足、と形容されることもありますが、個人的には駆け足どころの騒ぎではありません。完全に猛ダッシュしてます。一日縛りの法則は解除され、一回の間で目まぐるしく日付が変わり時が過ぎてゆく。第38話「ある隊士の切腹」から第49話「愛しき友よ」まで、毎回毎回苦しい思いに苛まれること確実の物語展開。
辛い物語ですが、やはり内容は素晴らしいです。面白いと形容していいのかどうか分からないけれど……面白い、のです。登場人物たちが続々と倒れ息絶えてゆく、そんな辛い状況の連続。ここまで来ると「新選組!」は、もはや青春グラフィティではありません。しかしそんな中でも、笑いという三谷幸喜の職人芸は光ります。ただこれまでと決定的に違うのは、その笑いが何を生み出すかということで……。人間のおかしさが落日編ではさらに強調され、その滑稽さが愚かさへと繋がっていく。歴史上の人間が人間として描かれていく、その面白さがこの「新選組!」の醍醐味。落日編まで来ると、やはり多摩編が懐かしくなります。多摩編で張られた伏線が次々と回収されていくうちに、多摩編は観る者にとって「とてつもなく辛い」物語となる。丁寧に広げた風呂敷を全部畳んでいく、その脚本トリックも絶妙です。
落日編になると、様々な登場人物が入れ替わっていきます。しかも役者全員が巧い。一押しは古田新太扮する有馬藤太。この有馬藤太という人物は、過去には萬屋錦之介が演じていたほどの重要人物です。しかし、これが凄くハマっている。やはり古田新太はカメレオン役者です。テレビでは見られないような格好いい役柄を演じきっています。すごく二枚目。

個人的お薦め話

  • 第38話「ある隊士の切腹語ることなき大傑作。
  • 第40話「平助の旅立ち」御陵衛士分離。先の展開を考えるとじわっとくる。
  • 第41話「観柳斎、転落」熱い。熱いぜ観柳斎…………!
  • 第42話「龍馬暗殺」史実とフィクションの絡め方に。
  • 第43話「決戦、油小路」巧みなテンポと壮絶な殺陣。
  • 第48話「流山」完成度高い。脚本演技演出どれも二重丸。
  • 第49話「愛しき友よ」いい意味で脱力。清清しい。