豊田徹也「アンダーカレント」(講談社)

遅咲きの新人・豊田徹也。各所で絶賛され、ついには朝日新聞の書評に載っていたので読んでみることに。絵柄は賛否両論ありそう。全員男に見えたりすることもある。でも、主人公は女性。
全体を通して地味な話。夫が失踪した銭湯の女主人と、その周囲の人間たちの物語。物語の主軸を成すのは失踪事件と、突如現れた男・堀。それに加えて……これは言わないほうが楽しめる気がする。
この作品も「読者に全体像を見せないながらも、隅々まで計算した上で設計されている」というもので、要するに伏線が丁寧に張られている。ストーリーが一気に展開して濃密になるのは後半で、そこで伏線が回収され始め、幾つもの疑問が氷解する。ただ前半もただの前振りで過ぎていくわけではなく、テーマの提示が行われるのはもちろんのこと、サブキャラによるエピソードが展開していく。また日常の淡々とした描き方も秀逸で、漫画ならではのユーモアも忘れないサービスぶり。これが実に効いている。あと伏線と書いたけれど、この伏線が厄介で、普通なら眺めるだけで終わってしまうようなコマが重要な意味を持っていたりするから大変。ということはどういうことかというと、すべて読み終えた後にもう一度読み直したりすると、思わぬところで膝を打つことになるということで。
ここまで内容について触れられない作品も珍しい。ただ失踪事件やら堀という謎の男やら、ネタバレできない理由が多すぎる。悔しい。読んでほしい。「映画一本分以上の至福」は確実に保証できる名作。読後、きっと心に何かが残ること請け合い。