劇団ひとり「陰日向に咲く」(幻冬舎)

劇団ひとり、連作短編集で衝撃の小説デビュー。
ホームレスに憧れる男「道草」、売れないアイドルに心惹かれるアキバ系「拝啓、僕のアイドル様」、カメラマンを夢みる恋するフリーター「ピンボケな私」、ギャンブルに明け暮れる中年男「Overrun」、浅草のストリップ劇場に出入りする三人の男女「鳴き砂を歩く犬」の5編を収録。
めくるめく劇団ひとりの世界。彼のコントにはどこか物語性があるなと思っていて、実際それが好きなんだけれども、活字になってみるとやはりそれは間違いではなかったと思った。帯にもあるように、落ちこぼれたちを愛をもって描くという趣向。しかし、落ちこぼれをひとりの人間としてしっかりと見ているというところにこの小説の温かさがある。
まさかデビュー作、しかもお笑い芸人の、とは思えない圧倒的ストーリーテリング。文章も荒削りだし、短編の中にサブタイトルがつきまくるという構成は褒められたものではないと思うけれど、それでもページをめくらせるだけの力がこの作品にはある。一編一編の物語が適度に練られており、コント的な要素*1もふんだんに取り入れている。ちなみにそれぞれの物語がリンクする仕掛けも「連作」と銘打つだけあって用意されており、しかもこれがなかなか心憎い。全五編一貫してのテーマもきちんとあることに、作家としてのこだわりを感じたりもする。読後きっと温かい気持ちになれる一冊であると、自分はこの作品を推したいと思った。
一編一編に細かく触れると、短編であることも手伝って面白味を殺いでしまいそうだから、あえて触れないことにするが、どの話も笑いと感動という要素を併せ持っている。確かに読み進めるうちに欠点も目に付いたりするのだが、とりあえずはデビュー作として大目にみたいと思う。ぜひ、よりレベルアップした作家・劇団ひとりの作品に期待したい。お笑いブームとは一線を画すその実力に、まずは驚嘆。

陰日向に咲く

陰日向に咲く

*1:彼のネタを何本か見たことがある人ならきっとわかってもらえるはず