明日の記憶

公開を心待ちにしていました。若年性アルツハイマーを扱った作品で、原作にも興味があったし。監督は堤幸彦だし。もう俺が観に行かない理由が見当たらない。
難病ものということでもっとあからさまに「泣きを狙った」作品なのかなと思っていたら、これがそうでもなかった。ベタベタに泣きを狙っているわけじゃなさそう。しっかりと人間を見せていって、感動につなげている。すごく丁寧につくられた作品だな、という印象。
脚本。若年性アルツハイマーでどんどん記憶を失っていく50歳のサラリーマンと、その周囲の人物の物語。記憶を失っていく過程と主人公の心情と、周囲の人物と、至極シンプルで大変よし。わかりやすくしているからこそ響いてくるものが確かにあった。原作に忠実なのかな?*1登場人物ひとりひとりを優しく見つめることで、逆に悲劇の悲劇らしさをあぶり出したりして。
演出。堤幸彦、完全にシリアスモード。それでもお得意の笑いをどこかに仕掛けようとする、その挑戦心たるや。人間を描く、ということにこだわられた演出。小ネタもほとんど封印して、まさに本気。映像の美しさをもって逆に病気の怖さを描いた。確かに現実と照らし合わせてみればリアリティには欠けるのかもしれないけど、美しさは棘を持つ。綺麗だからこそつらいシーンもある。あとは、いつもの凝った映像も随所随所で効果的に。病気を疑似体験させるような効果があって、使いどころうまいなと思った。
役者。渡辺謙樋口可南子はさすが。本当に夫婦であるかのような空気感。ふたりして泣いたり笑ったり怒ったり、感情の機微まで巧みに表現。ほか、だれもかれもが芸達者。地味なキャスティングかもしれないけれど、場面場面でポイントを抑えていく。キャスト全員が安定した演技を披露、完成度の向上に一役買う。
まとめとしては、こんなに怖い作品だとは思っていなかった。でもきちんと感動させる要素はあるし、上映終了後の余韻は最近観た作品の中では出色。しっかり考えながら観られるので、自分なりに答えを出すのもよいかも。*2難病ものとはいえ、最近やたら多いそれとは明らかに方向性が異なる作品。世代問わず観られる稀有なヒューマンドラマ。

*1:これから読む

*2:もっとも、答えなんて出ない作品だと思ったり