大人計画「まとまったお金の唄」

2006年6月3日(マチネ)/大阪・ウェルシティ大阪厚生年金会館 芸術ホール

当日券で。忙しいなか、大阪まで出向いたので空き時間に。予定になかった観劇だけど、これがもうめっちゃくちゃに面白かった。
テーマのない演劇があってもいいじゃないか、という松尾スズキだけれども、彼の書く戯曲はとんでもなく重いテーマが盛り込まれているといつも思う。今回も例に漏れず、食と排泄、生と死がダブりながら、大阪万博のノスタルジーと当時の社会事情を描いている……というと、随分わかりにくい作品のように思えないでもない。
が、そこは大人計画の面々が演じるだけあってドライ。重いテーマを軽妙に料理し、暗いのに明るい物語へと転化している。荒川良々を母親役に据えた結果、ぶっ飛ぶようなホームドラマにもなっている。が、これって本当にホームドラマだったのか?
ギャグとネタに彩られ、懐かしい音楽が流れまくる前半。コメディでありつつももの悲しさをたたえた、壮大な「振り」だったのだろうかと思った。初っ端から全開、飛ばしまくりの笑いの波状攻撃。つかみは完璧?一度引き込まれたが最後、ラストまで気を抜かせない牽引力……。登場人物全員に事情がある、というめんどくさい設定も、ひとつひとつ丁寧に見せていく。万博を扱ったことで、切なさも増し。後半、閉会式のカウントダウンとかは最高の大道具になっていた。この舞台設定なくしてこの作品なし。「まとまったお金」とは果たして何か、そのへんは観客一人一人にお任せするスタイルか?カーテンコールで松尾スズキが発する言葉に、なんか一筋縄で終わらせない仕掛けがあった気がする。
この作品のキモとなるのがウンコで、もうウンコウンコうるせえよ!っていうほどウンコの話が出てくる。実にバカバカしいけど、これが結局キーワードなんだから仕方がない。ウンコとカレー。ウンコと女。ウンコと反社会。ウンコとセックス。ウンコとウンコ。ウンコウンコウンコ。わけわからん。でもそれは字面だけであって、この作品はウンコをこれ以上ないほどにキレイに描くことに成功していると思う。しかしそんなに飛ばしていても、明らかに落ち着いている世界。エロもグロもバイオレンスもほどほど。というか、ないに等しい(か?)大人計画そのものに円熟味?いやいや、松尾スズキに円熟味?どこかなまぬるく、そのなまぬるさが気持ちよくて気持ち悪い。
注目すべきは音楽で、意外なまでに音楽にもこだわりを見せる。万博当時の音楽ネタを盛り込んだり、実際に演奏させてみたり、音楽と演技の一体感も。ミュージカルじゃないけどね。
役者。荒川良々、テレビ以上に濃い演技で圧倒。それでありつつも悲劇の未亡人を好演。阿部サダヲ、テンションで押し切り。笑いを担当しつつも、せつなさもかもし出す。市川実和子大人計画の役者と思われそうなほどの怪演。で、ありつつもしっかりとヒロインのポジションを熱演。終盤でマジ泣きあり、演技の成長もびしびし感じた。宮藤官九郎、爽やかでも悪っぽさがあるウンコ哲学者。松尾作品でも屈指のはまり役か。終盤は独壇場!内田滋菅原永二。客演コンビもしっかり周囲と同化。面白い!平岩紙、ナビゲーター的役割をこなし。実は今回の作品で一番の役得か?
初めて生の大人計画本公演、ダークでもこだわり感やら何やらで笑いにつなげる精神は……。松尾スズキのどろっとした作品世界を堪能、次回作も早めにお願いします!