時をかける少女

関わっている人間に魅力がありすぎて、メインスタッフリストがこんなに長くなってしまった。「時をかける少女」初のアニメーション化作品。
この夏のアニメ大激戦、恐らくこの作品を超えるものはないだろうなと思った。ぶっ飛ぶほど面白い。が、勘違いしてはいけないことは、「世紀の大傑作」ではないということ。「小品」の域を出るようなことはしていない。小さくまとまってる、と書くと語弊がありそうだけど……。でも俺が思うに、中規模or小規模の作品ではほぼ完璧ではなかろうか。褒めすぎか。そうかそうか。
原作の主人公、芳山和子の姪にあたる紺野真琴が主人公。正統派の続編というべきか、筒井康隆も「まさに二代目」と語るほど。しかし今回の「時をかける少女」は、いかにも現代的。現代に置き換えた時にどうなるか、という試みをやっている作品でもあり。
原作はSF小説原田知世主演による大林版は、恋愛映画。今回はどの角度から切り込んだか、というと、青春。男女三人のものすごく甘酸っぱい青春。ものすごく爽やか。アニメでここまで青春映画してるのは久しぶりかな。夏に観るべき映画、と書くとよりいっそう伝わりやすいかな?青空の美しさがここまで映える、と。
この映画で一番重要なのは脚本。奥寺佐渡子による、アニメ映画であるということを完全無視したといっていい脚本*1。でも逆に、それがよかったといえる気がする。一番の盛り上がりどころは、終盤の少し手前で訪れる。もちろん終盤にもひと波あるけど。これはなかなかアニメ作品ではないことのように思う。そもそも、映画でこういう構成は珍しい、というか。なぜそういう構成かというと、終盤はぐっと濃いドラマ展開になるから。そこまでで散りばめられたパズルのピースが一気に収束するから。*2
構成のことはさておいても、メリハリがあってかつシンプルな脚本は完成度高し。サブエピソードがちょくちょく顔を出し、それがメインエピソードに吸収されることで展開する。それでもとっ散らかった感じになっていないのは、奥寺佐渡子の実力か。前半はわりとライトコメディで、後半ディープにシリアス。コメディからシリアスへの流れは、タイム・リープによって状況が微妙に変わっていくことの繰り返しでスムーズに。展開もいちいち、「ああもうなんでそんなことすんだよ!」とか、「ああ、あるある」とか、「若いっていいなあ」とか、「ちくしょおもどかしいいい」とか、青春のじれったさそのもの。まさに甘酸っぱいとはこのことか。そんななかにタイム・リープの仕掛けを取り込んで、うまく昇華している脚本。なんかもう筆舌に尽くしがたいというか、もうこの面白さを伝えられている気がしない。
細田守の演出も、奥寺脚本に極めて忠実に*3、直球の物語には直球の見せ方にこだわっている感があります。脚本と同じくシンプルな演出。脚本に書かれていない部分を演出で補うというか、登場人物の心情の機微を巧みに映像で表現。ちなみに今までの細田作品の集大成ともいうべきか、交通標識をはじめとし、過去にも使われた演出も再利用しています。知ってる人はニヤニヤする感じ。知らない人は普通に観られる違和感のなさ。脚本を活かした丁寧な演出は今回も炸裂。
ちなみに、脚本演出ともに、原作と大林版を観ている人ならにやりとできるような隠し味あり。オマージュとまではいかなくとも、思うところはあるはず。
で、特筆しておかなければならないのは、ここまで青春を描いているにも関わらず、過去はよかった、というノスタルジー的なものに頼っていないこと。主人公である真琴のキャラクターはこのためか、ものすごく前向きな、未来を見据えた作品に仕上がっています。ラストの台詞なんて思いっきりそれを表している気がする。映画館を出た時にすごく爽やかな気分になる、仮に晴れた日でなくとも……そんな作品です。是非今、夏に観るべき作品。

*1:なぜならアニメには初挑戦だから

*2:ちなみに伏線の張り方、回収のしかたもさらっと秀逸

*3:「ワンピース」ではすごい改変っぷりだった