日本沈没

これぞ、日本版アルマゲドン。もしくは、日本版ディープ・インパクト。要するに、日本人が日本人なりの感性でハリウッドのパニック映画を撮るとどうなるか、みたいなことを如実に示した感のある作品。これを「日本沈没」という題材で撮ったことは、賛否の分かれるところなんだろうな。自分は原作にも前作にも触れたことがないから、どうとも思わなかったけれど。
脚本はリアリティがあるんだかないんだからわからない。ただ、終始緊張感を伴いつつ展開するのは好印象。それでありつつも適度に息抜きをさせる構成。ただ、人間の描き方は中途半端。特に主役ふたりにその傾向が顕著で、そのせいでラブストーリーの部分がかったるいのは致命的。きっちり主役ふたりの行動に関わってくるのはわかるんだけど、いかんせんラブストーリーに至るには説得力がなさすぎるし。それにまず、なぜかそういう関係のシーンは演出が冴えていない。*1あと細かい突っ込みどころは大量に。一番変なのは草なぎ演じる小野寺で、災害で自由に移動できない日本をあっちこっち自由気ままに移動する。*2
また、テーマも曖昧。日本人のアイデンティティに関する映画なのか、日本という国を見つめ直させることを目的とさせる作品なのか。もっと娯楽志向で、悲恋物語に泣くべき映画なのか。さらに頭を使わないで、特撮を堪能する映画なのか。自分は、一番最後の楽しみ方をした感じ。「特撮すげえ!」そこ。素晴らしい。
もうとにかく特撮に関しては日本映画史上最強?ぐらいの勢いで、昔から特撮映画が大好きだった自分にとっては感動もの。不謹慎なことはわかっているけど、地震で崩壊する街の遠景とかにもうメロメロになるみたいな。ハリウッド顔負けのクオリティ、だと思った。しかし納得いかないのは、これだけ大胆に作っといて、仕上がりがマイルドなこと。なんだろう、必要以上に痛い破壊はしていないというか。破壊の映像で「破壊の痛み」を表現する気がさらさらないように見えた。やっぱり災害モノだし、実際の被災者のこと考えるとその辺は痛ましいから……しかたないのかと思うけどね。そういう意味ではいかにもハリウッド的な爆発。
役者。草なぎ剛、消極的なヒーローははまり役か。時折見せる表情が秀逸。柴咲コウは体当たりの芝居に驚いた。上手いシーンと下手なシーンがはっきりする女優。及川光博、いつものミッチーとは違う落ち着き演技。この抑え加減が秀逸、この作品で一番の注目。柄本明、少なめの出番でくっきり存在感。國村隼、リアリティ担当でぞくっとさせる怖さがあり。石坂浩二、すべての台詞に重みあり。こちらも存在感に圧倒され。豊川悦司、儲け役?ずっといいところを押さえていく。格好よし。大地真央、どかんどかんやる作品の中でしっとり抑え。あと演劇好きとしては大倉孝二手塚とおる村杉蝉之介池田成志に要注目。池田成志を除いてはいい役どころ、いい味出してます。こうなると、成志があれだけだったのが実にもったいない。
実は自分としてはかなり好きな部類の作品。なんか大味で、設定もトンデモ風味で、でもこだわりが面白くて、役者がそれぞれいい味出してて、それで映像的にも面白くて、って。なんか、いかにも超大作って感じなのが好き。やっぱり超大作はどかーんと見せてくれないと、って感じか。でも樋口監督、今後映画撮るんだったら、もっと頭を使える作品撮ってください。

*1:そういえば、「ローレライ」も人間ドラマ的な部分が極めて弱かった

*2:そう、「利家とまつ」のまつ様のように