シネマ歌舞伎「野田版 鼠小僧」

2006年10月7日/三重・三重県文化会館中ホール

野田版鼠小僧、シネマ歌舞伎として三重県に。なんでまた三重県
歌舞伎を生で観たことはなくて、映像で観るのが2回目*1。今回のシネマ歌舞伎はデジタル収録されているだけあって画質・音質ともに良く、非常に観やすい仕上がり。ただ、会場のホールの音響設備が悪かったのは残念と言うほかないか……。
内容は歌舞伎の皮を被った野田作品。とはいえいつもより随分マイルドで、彼の作品特有の「わからなさ」は今回はほとんど見てとれず。とはいえ尺はいつもの野田作品と変わらないので、「野田作品の野田作品らしさ」をしっかり期待していくと肩透かしかも?薄味なぶん、中盤ちょっとダレるのはしかたないか。いやいや、それでも歌舞伎の世界に野田作品のエッセンスをここまで持ち込んだのは単純にすごい。
ここまで野田野田野田野田とうるさく言ってきたので、どんなに作家色が強いかと思われそう*2だけど、今回は本当にしっかりした御伽噺。盗人でもなんでもないただのケチ野郎・三太が架空の怪盗である鼠小僧になりきって大暴れするという、ある種ベタな設定がストーリーの根幹。しかしそこにあくまで時代劇の世界で成立しうる設定を投入するとどうなるか。これが驚くべきことにきれいにまとまるのだ。ファンタジーっぽさも残しつつ、現実の冷たさも何気なく織り込んでみせる仕掛けあり、それでいてホロリとさせる要素も。また一番驚けるのは「とあるものとのリンク」なのだが、そこは絶対に明かしてはならないところ。是非機会があれば観ていただいて、そしてびっくりしていただきたい。
役者。中村勘九郎、ほぼ全編出ずっぱり、心情を巧みに演じ分けての名演。やはり侮れない「首謀者」。プロデューサーとしての実力もご存知の通り。中村福助、中盤からの登場もいやーな女、だけど憎めない女をさらりと。中村橋之介、テレビであまり見られない悪い顔を前面に。坂東三津五郎、後半から登場して場をかっさらっていくという大変おいしいポジション。弾け方がすばらしい。
歌舞伎を生で観る機会はなかなかないので、貴重な機会だった。次は「野田版・研辰の討たれ」を是非……ま、DVD出てますけど。

*1:1回目はWOWOWで「決闘!高田馬場

*2:と書くとそれだけ読者がいそうに思えるという高等テクニック…………