トゥモロー・ワールド

ひっさびさに外国の映画を観た。最近なんか遠のいていた気がするな、と思っていたら、前に観たのはダヴィンチ・コード。実に半年振りだ。っていうか邦画を観すぎなのか。
ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」が物凄く面白くて*1、監督のアルフォンソ・キュアロンに注目していた、とはいえ過去作はまだ一本も観てない。したらこの映画が公開になったので飛びついたというわけ。
へえ、この監督ってSFも撮るんだ、と思っていたらとんでもない。これはSFであってSFでない。メカ的なぎらぎらしたものはほとんど登場しない、アクションはほぼ銃撃戦。それどころか集団で石を投げる投げる。これほんとに2027年かよ、って感じだけど、退廃した世界なので問題なし。このどんよりした終末の演出がすばらしい。息苦しいし、なんかもう何もかもどうでもいいや、って気分になってくる。
平和と混沌、無秩序の使い分けも秀逸。内容に触れると、コーヒーショップから主人公が出て、しばらくしたらいきなりコーヒーショップが爆発、ってところから物語は始まるんだけど、コーヒーショップの数秒がすごくゆったりしている。でも爆発する。ああ平和じゃねえんだ、ってことがすぐ判る。
ほかにも車の中で主人公とヒロインがピンポン球使ってイチャイチャしてたらいきなり……のくだりとか、もう一瞬で明暗転換する場面がたくさん。登場人物も全員どこかおかしいし、歪むべくして歪んでる感すらあり。また、暗にあたる混沌だけど、唐突に出てくる暴力はほんとに痛い。
ひとつ大前提。これはそんなひでえ状況下におかれた男と「ある少女」の巻き込まれ型サスペンスであるということ。様々な視点が存在する物語であるにも関わらず、描く視点は一点に絞っている。非常に観やすく、サスペンスにこだわっている感があり。また、前述のとおりSFに捉われてると肩透かし。巻き込まれて逃げつつ、かつ闘いつつ、というある種古典的なストーリーが主軸にある。でもテーマはヘビーで、ズバリ少子化問題。外国人排除の問題。
残念なのは脚本で、そのテーマを扱いきれてないというか、テーマにこだわった結果詰めが甘くなったりしている。ストーリーは案外穴がある気がしないでもないってこと。でもあえて答えを出さない、結末もこれが幸せなのかどうかハッキリさせない、そんな“考える余地のある脚本”。あとは観客個人に委ねます、みたいなところも。
特筆すべきポイントは2点。まず音楽。BGMというよりは確実に意図のある音楽。それでいてUKロックで、劇伴音楽っぽさはなし。ディープ・パープルとか参加しているし。聴き応えあり。マイケル・ケイン扮するジャスパー*2絡みのシーンは音楽に要注意。聴かせる。でありつつ、ストーリーを引き立てる。
2点目。映像。質感はアルフォンソ・キュアロンのセンス爆発といった感じ。感覚的にするっと入れる世界観はこの映像センスによるところが大きい。また、これを語らずにいられない、衝撃の長回し。クライマックスに恐ろしい長回しがあるんだけど、完全に観客がその状況を体験できる。爆発やアクションも含めての超長回し。ドキュメンタリーに近いテイストで、観るものを呑み込んでしまう勢い。また前述のピンポン球シーン、ピンポン球自体もどうやって撮ってんだろうって感じだけど、車の中で自在に動き回るカメラははっきり言って謎。同乗している感もひしひしと。そのシーンの後半はほんとにわけわかんない。さらには超重要なシーンがまたしても映像のマジック。これ言うとネタバレになるから割愛、観た人ならわかるはず。全体的に、どうやって撮ってんの?っていうシーンが多い。一言にいって撮影技術がすごすぎる。映像作品としても一見の価値あり。*3
恐るべしアルフォンソ・キュアロン。重厚なテーマをエンターテインメント志向のストーリーに乗せ、ぶっとんだ映像で綴る。しかも本編時間が120分ないというコンパクトな仕上がり。普通にすごい、このクオリティの作品はそうそう観られない。文句なしに傑作と言ってしまおう。

*1:前2作が非常によろしくなかったのも要因か?

*2:もうものすごくいい!

*3:すごくメイキングが観たい。DVD早く!