東京タワー〜オカンとボクと、時々、オトン〜

故・久世光彦の企画によって、リリー・フランキー著のベストセラーをドラマ化。脚本は劇作家・土田英生。演出は久世の遺志を継ぐ形で西谷弘が担当。
原作を読もう読もうと思いつつ未だに読めていなくて、初「東京タワー」。原作をかなり変えてるらしくて、それが改悪となっていたらしいんだけれども、個人的にはかなりいい物語でした。基本的にはリアルなんだけど部分部分でどこか寓話的で、それでいて自伝が原作ってなんなんだそれ。どこが脚本家オリジナルなのかはわからないけど。
基がノンフィクションに限りなく近いわけだからこういうのはどうかと思うけども、ベースは極めて王道な親子の物語。今回はそこにどういう味付けがなされたかというと、久世光彦風味。土田英生が書いてるにも関わらず薫り立つ、昭和の雰囲気。演出・久世光彦が叶わなかっただけに、生前の彼の作品よりはゆるい感じではあるので、今の感覚をもってしても違和感はほとんどなし。
リリー・フランキーイラストレーターであるとか、そういったリリー自身のバックボーンはほとんどこのドラマには反映されず。フィクションとして割り切って観ることもできるので、そういう意味では非常に観やすかったかな。ひとりの架空の人物としてかなり作りこまれた人物だらけなので、裏にあるものが透けて見えにくくなっている。そこがリアルさを引き立て、かつリアルさを殺しているので不思議。
概ねよくまとまっていて好印象。東京時代に入ってからは俄然面白くなり、どんどん食いついていける展開に。逆にいえば少年時代は「つかみ」として成功していないし、イマイチ。が、終盤へのちょっとしたフリもあったのでそこはよしとしよう。親子というストーリーの中心軸はブレないので、このあたりはオカンを中心にしっかり据えたことが要因か。が、恋愛などの要素が入ってくる中盤、ストーリーの針があまりにも振れないのはどうしたものか。もっと柔軟でもよかったような気が。
とはいえ。もう後半は黙ってじっと画面を見つめてばかり。確かに、よくできていた。しっかり観ている人間を黙らせているあたり、これは完全に製作側の勝ちとしか言いようがなさそう。脚本は難あれど、事柄を真正面から描いてぶつけてくる演出はすごい。あーもう、終盤はもういつ泣くかと思った。泣かなかったけど。欲をいえば、涙腺を決壊させる一撃が欲しかった気もする。でもそれは創作の家族劇としての話。観るものの環境みたいなものとオーバーラップした時、これはもう何も言えない。王道だけど、一番リアルなのかも。
編集。最初の完成から紆余曲折あっての今回の放送なのでしかたないとは思うのだけれど、場面がちょくちょくブチっと飛ぶのはマイナス。それでもよくつないだ、これはスタッフの力量。というか終盤、これよく撮り直しができたなあと感心。一度に豪華な面子が勢ぞろいするシーンがあるんだけど。
役者。田中裕子、文句なし。完全にオカン。最初から最後までオカンそのもの。すごいとしか言いようがない。大泉洋、飄々とした感じがいい。台詞回しなどに感情振り回され。佐藤隆太、いつもながらのキャラなれど、いつもと違うテンション。しかし、いつもながらの好演。塚地武雅、代役とは思えないハマりっぷり。いい箸休めとなり。蟹江敬三、油断していると不意にじわりと沁みる。