クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲

異色作。だけど現時点で、シリーズ最高傑作。89分間、まったく飽きない。子供はもちろんのこと、大人も十二分に楽しめる(むしろ、大人の方が楽しめるという意見もあるほど)。
今回は、大人を明らかにターゲットとして作っている。内容もそうであるし、ギャグも挿入歌も大人でなければわからないようなものがほとんど。けれど、子供も楽しめるように工夫されている。まあ、もともと子供というものは、意外なところから面白味を見出すのが得意な生き物だし。ただやっぱり、ストーリーは割と単純。これまでに比べるとほんのわずかに難しいのかな、と思ったりもしますが。
導入部、ただひたすらに万博の空気。見事な導入部。大人たちが無邪気に遊んでいる姿を描くだけで、大人たちの過去をも連想させることに成功している。そしてしばらくののち、ついに様子がおかしくなる大人たち。子供の目線から見れば、その風景はホラー映画さながら。ひょっとすると、これを劇場で観ていた子供たちは恐怖を感じたのではないか?とすら思うほど。身近なところで人間が変容していくというのは怖いものです。ひろしとみさえの様子がおかしくなったり、幼稚園の先生たちが公園で遊んでいたり、そのさまはやけに不気味に描かれています。これは大人たちがチャコとケンに連れ去られてゆく前振りにしかすぎないのだけれど。
この作品のアクションで特筆しておくべきなのは、カーチェイス・シーン。映画史上、最も緊張感がないカーチェイスだと思います。ギャグも豊富に用いられる(下ネタも)し、音楽もどこか間抜けな感じ。でも、普通のアクション映画なら死人が出まくっているようなアクションシーンです。でも、クレヨンしんちゃんだから問題ない。
後半は、もう自分如きが書くことはない!クレヨンしんちゃんらしく下ネタも露骨なナニもあるけれど、それ以上にストーリーの展開が素晴らしい。ストレートなギャグが重みを持ち、回想シーン(挿入歌もいいんだよね……)もじーんとする。さらに映画として一番盛り上がるシーンが「走るシーン」であり、そこで自分は涙腺が崩壊した。何故走るシーンで涙腺が崩壊させられてしまうのか?そこに至るまでの流れもいいし、何といっても音楽がいい!演出がいい!
観客に、過去に帰りたくなっている自分に気付かせ、さらに未来を意識させるという荒技を89分でやってのけてしまっている作品です。また顔をあげて、明日への一歩を踏み出すほかない。「クレヨンしんちゃん」に泣かされるなんて本当に悔しいんだけれど、やっぱりこの作品の持つ魅力は否定できない。そんな映画。今更自分がこんなことを言っていいのかどうか分かりませんが、必見。