「ニンゲン御破産」

2003年2月19日/東京・Bunkamuraシアターコクーン(WOWOW)

松尾作品の大ファンであったという中村勘九郎(現・勘三郎)を主演に迎え、「キレイ」初演以来、大人計画シアターコクーンに上陸……という舞台。休憩2回を挟んで3時間半という長尺。
ひとことに言って、ものすごく分厚い小説。しかも物語はあっちこっちして、脱線して、本筋から大きく外れ、それでいてきっちり元のところに戻ってくる。あらすじなんて書けやしない、書こうものならこのブログがはちきれる……。長尺と書いたけれど、この作品に限っては、わずか3時間半によくぞここまで凝縮してくれたと思う。確かに長いけれど、長いだけの作品じゃあ、ない。
ズバリ江戸末期を舞台にした時代劇、内容は歌舞伎を書く男の、歌舞伎以上に数奇でドラマチックな物語。ひとことに書けばそれだけ。この一本の筋を、作者・松尾スズキの登場から、堂々の結末まで一気に見せ切る。松尾スズキ本人が登場しておかしな喋りを披露、というのっけからのメタ演劇っぽさから、誰がそのあとの展開を予測できたか。筋を見失いつつ荒ぶるストーリー展開でぐいぐい引っ張る。笑えるネタもオンパレード、サービス精神はもちろん大盛り。その暴れ馬をまんまと乗りこなせるかどうかは、観客次第。
結局最初はわけわかんなくって二回観たのだけれど*1、二回目でいろいろ疑問が氷解。わからなかったことがわかると、とたんに全てが裏返る感動。面白い!実に面白い!しかしどこが面白いかなんて、説明できない。ストーリーはもちろん秀逸。役者ももちろん。これは「ニンゲン御破産」という、松尾スズキによるひとつの完成形なのかもしれない。
役者たち。中村勘九郎、もう全体を引っ張ってみせる圧倒的実力に驚嘆。映像で観ても、雰囲気を自在に操っているのがよくわかる。特に、二幕の最後で叫ぶ「からっぽだあ」というセリフはもはや演技を超越した感すら。田畑智子、初舞台なのに健闘。殆ど唯一の観客キャラ。阿部サダヲ、いつもながらの大暴れ。浅野和之、彼の世界観はここでも健在。小松和重、笑いもシリアスも背負う功労者。やたら巧い。皆川猿時、端役ながら所々でかっさらっていくずるさあり。片桐はいり、もうノリノリ。気持ち悪いぐらいの面白さ。宮藤官九郎、幅広くこなす。いちいち面白く、いちいち普通で、いちいちうまい。松尾スズキ、自身が重要な役柄を演じることで作品の完成度を上げ。宮藤との絡みはまったくもって、絶妙。

*1:生だとこうはいかない……