嫌われ松子の一生

もう、悶絶するぐらい面白かった。こちらも原作が分厚いのだけれど*1、ミュージカルにすることでうまく削っている。要するに、ミュージカル。でもそこまでミュージカルなわけでもなく、結構間口はギリギリまで広げてる印象。
川尻松子という女性の一生を追ってる話で、とにかく陰鬱で暗くてどうしようもない話。でもなぜか、これがファンタジックに描かれることで、希望が生まれてくる。2時間10分、中島哲也の前作「下妻物語」よりは長いけれど、「下妻」以上にヘビーで、コミカルで、密度が高くって……。ストーリーの暗さなんかは演出でどうにでもなってしまうぜ、という好例だと思った。
ものすごく悲惨な話、ということを強調しておきたいのは、予告などで受けるイメージがそうではないかもしれないから。昼ドラなんか目じゃない感じの勢いで転落する話です。普通に映画化してたらきっとこんな作品にはならなかったと思う。というか、どろどろしているらしい原作を読んで「よし!これをミュージカルにしよう!」って、中島哲也の頭の中はどうなっているんですか?
悲惨さが悲惨なだけで終わらないように、きっついことの直後にはギャグの波状攻撃があったりするのも素敵。しかし後半なんか鬱と躁の繰り返しみたいなもんで、笑っていいのかよくないのか困る感じになります。また、現代パート(瑛太とか……)はどちらかというとコメディ仕立て。いい箸休めになってます。
テンポが良いので飽きないし、中だるみがないようにうまく考えられてて感心した。笑いから感動へのシフトチェンジに衝撃。でも一番驚いたのは、予告編でも使われている、あるシーン。終盤で異常なまでに効いてきて、不覚にも感動。
音楽。懐メロから最新のアーティストに書き下ろさせた新曲まで贅沢に。どれもこれも使いどころを押さえて、聴かせます。音楽と映像の気持ちいい融合、と書くと宣伝くさいか。でも、そういうことなんだな。
役者。中谷美紀狂言回しでありつつも堂々の主演。監督と衝突した、というだけあって魂の演技。瑛太、飄々とした雰囲気がよし。伊勢谷友介、痛々しさが見事。武田真治、「ぱっと見たらそれほどでもないんだけど」がツボに。劇団ひとり、朝ドラとは似て非なる最低っぷり。片平なぎさ、いいとこ取り。BONNIE PINK、哀愁漂うトルコ嬢がなぜかはまり役。谷中敦、こちらもなぜか格好良いはまり役。宮藤官九郎、表情で見せる。香川照之、なんかいい。さすが。
で、この役者陣に全力でフルスイングさせたのが脚本・監督の中島哲也。今のところ、この人の作品に外れなし。「X'Smap」でさえ異常な面白さだったもんな。*2現場では怒鳴りまくってたというし、相当な気合いの入り方だったと思われる。色彩の使い方とか、ぶっ飛んだ演出とか、こんなもん誰も思いつきません。音楽までこだわってるあたり、もはや映画監督の枠を破壊してる感じすらあり。が、この人の欠点として、ラストがやたら長いというところがある。「下妻」もそうだったけど、ここで終わっとけばいいのにな、というとこからまだ2,3分ある。最後の切り方がいまいちよろしくない。個人的には、そこさえ直れば完璧なんだけど。
感想書いててまったく感想にならない感じの作品も珍しい。ちょっとでも気になったら観るべき。多分ツボにハマってくれるはず。

*1:ダ・ヴィンチ・コード」と比較している

*2:あれは監督だけか……